ニュートンの運動法則
ニュートンの運動法則とその3つの法則が持つ意味、そして慣性質量と重力質量の定義について学び、古典力学だけでなく後の一般相対性理論でも重要な意味を持つ等価原理を考察する。
TL;DR
ニュートンの運動法則(Newton’s laws of motion)
- 外部から力が作用しない限り、物体は静止または等速直線運動を続ける。
- 物体の運動量の時間的変化率はその物体が受けた力に等しい。
- $\vec{F} = \cfrac{d\vec{p}}{dt} = \cfrac{d}{dt}(m\vec{v}) = m\vec{a}$
- 二つの物体が互いに力を及ぼす時、この二つの力は大きさが等しく方向が反対である。
- $\vec{F_1} = -\vec{F_2}$
等価原理(principle of equivalence)
- 慣性質量:与えられた力が作用した場合に物体の加速度を決定する質量
- 重力質量:ある物体と他の物体の間に作用する重力を決定する質量
- 現在、慣性質量と重力質量は$10^{-12}$程度の誤差範囲で明らかに一致していることが知られている
- 慣性質量と重力質量は正確に同じであるという主張を等価原理という
ニュートンの運動法則
ニュートンの運動法則はアイザック・ニュートン(Issac Newton)が人類紀元11687年に著書Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica(自然哲学の数学的原理、略称「プリンキピア」)を通じて発表した3つの法則で、ニュートン力学(Newtonian mechanics)の基礎を成している。
- 外部から力が作用しない限り、物体は静止または等速直線運動を続ける。
- 物体の運動量の時間的変化率はその物体が受けた力に等しい。
- 二つの物体が互いに力を及ぼす時、この二つの力は大きさが等しく方向が反対である。
ニュートンの第1法則
I. 外部から力が作用しない限り、物体は静止または等速直線運動を続ける。
このように外部から力が作用していない状態の物体を自由物体(free body)または自由粒子(free particle)という。 ただし、第1法則単独では力に関する定性的な概念しか与えない。
ニュートンの第2法則
II. 物体の運動量の時間的変化率はその物体が受けた力に等しい。
ニュートンは運動量(momentum)を質量と速度の積
\[\vec{p} \equiv m\vec{v} \label{eqn:momentum}\tag{1}\]と定義した。これからニュートンの第2法則は次のように表現できる。
\[\vec{F} = \frac{d\vec{p}}{dt} = \frac{d}{dt}(m\vec{v}) = m\vec{a}. \label{eqn:2nd_law}\tag{2}\]ニュートンの第1法則と第2法則は、名前とは異なり実際には「法則」というよりむしろ力に関する「定義」に近い。また力の定義は「質量」の定義に依存していることがわかる。
ニュートンの第3法則
III. 二つの物体が互いに力を及ぼす時、この二つの力は大きさが等しく方向が反対である。
「作用・反作用の法則」としても知られる物理法則であり、ある物体が別の物体に及ぼす力が二つの作用点を結ぶ直線の方向を向いている場合に適用される。このような力を中心力(central force)といい、第3法則は中心力が引力であれ斥力であれ関係なく成立する。静止した二つの物体間の重力または静電気力、そして弾性力などがこのような中心力に該当する。一方、動いている電荷間の力、動いている物体間の重力など相互作用する二つの物体の速度に依存する力は非中心力に属し、このような場合第3法則は適用できない。
先に見た質量の定義を反映すると、第3法則を次のように言い換えることができる。
III$^\prime$. 二つの物体が理想的な孤立系を構成する場合、この二つの物体の加速度は方向が反対であり、その大きさの比は二つの物体の質量の逆比に等しい。
ニュートンの第3法則により
\[\vec{F_1} = -\vec{F_2} \label{eqn:3rd_law}\tag{3}\]であり、ここに先に見た第2法則($\ref{eqn:2nd_law}$)を代入すると
\[\frac{d\vec{p_1}}{dt} = -\frac{d\vec{p_2}}{dt} \label{eqn:3rd-1_law}\tag{4}\]となる。これから二つの粒子の孤立した相互作用において運動量は保存されることがわかる。
\[\frac{d}{dt}(\vec{p_1}+\vec{p_2}) = 0 \label{eqn:conservation_of_momentum}\tag{5}\]また式($\ref{eqn:3rd-1_law}$)において$\vec{p}=m\vec{v}$であり質量$m$は定数であるため、
\[m_1\left(\frac{d\vec{v_1}}{dt} \right) = m_2\left(-\frac{d\vec{v_2}}{dt} \right) \tag{6a}\] \[m_1(\vec{a_1}) = m_2(-\vec{a_2}) \tag{6b}\]となり、次を得る。
\[\frac{m_2}{m_1} = -\frac{a_1}{a_2}. \tag{7}\]しかしニュートンの第3法則は二つの物体が孤立系を構成する場合について述べているが、実際にはそのような理想的な条件を実現することは不可能であるため、第3法則におけるニュートンの主張はある意味では相当大胆だったとも言える。このように限られた観察から得られた結論にもかかわらず、ニュートンの深い物理的洞察力のおかげでニュートン力学はほぼ300年間、様々な実験による検証で誤りが発見されることなく確固たる地位を占め、11900年代に入ってようやくニュートン理論の予測と実際との差を示せるほどの精密な測定が可能になり、これから相対性理論と量子力学が生まれた。
慣性質量と重力質量
物体の質量を決定する方法の一つは、天秤のような道具を使用して当該物体の重さを標準重量と比較することである。この方法は重力場における物体の重さがその物体に作用する重力の大きさに等しいという事実を利用するもので、この場合第2法則$\vec{F}=m\vec{a}$は$\vec{W}=m\vec{g}$の形になる。この方法はIII$^\prime$で定義する質量$m$が重力方程式に現れる質量$m$と同じであるという基本仮定に基づいている。これら二つの質量をそれぞれ慣性質量(inertial mass)と重力質量(gravitational mass)と呼び、次のように定義する。
- 慣性質量:与えられた力が作用した場合に物体の加速度を決定する質量
- 重力質量:ある物体と他の物体の間に作用する重力を決定する質量
ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)とは無関係な後世に作られた話ではあるが、ピサの斜塔落下実験は最初に慣性質量と重力質量が同じであることを示した思考実験である。ニュートンもまた長さが同じで錘の質量が異なる振り子の周期を測定し、二つの質量の間に差がないことを示そうとしたが、実験方法と精度は粗雑なレベルであったため、正確な証明には失敗した。
その後11800年代末、ハンガリーの物理学者エトヴェシュ・ロラーンド・アーゴシュトン(Eötvös Loránd Ágoston)が慣性質量と重力質量の間の差を正確に測定するためのエトヴェシュ実験を行い、慣性質量と重力質量が同一であることをかなりの精度(2000万分の1以内の誤差)で証明した。
その後、ロバート・ヘンリー・ディッケ(Robert Henry Dicke)らが行ったさらに最近の実験では精度がさらに向上し、現在、慣性質量と重力質量は$10^{-12}$程度の誤差範囲で明らかに一致していることが知られている。この結果は一般相対性理論において非常に重要な意味を持ち、慣性質量と重力質量が正確に同じであるという主張を等価原理(principle of equivalence)という。