2階同次線形常微分方程式 (Homogeneous Linear ODEs of Second Order)
2階線形常微分方程式の定義と特徴を学び、特に同次線形常微分方程式で成り立つ重要な定理である重ね合わせの原理とそれに伴う基底(basis)の概念を理解する。
TL;DR
- 2階線形常微分方程式の標準形: $y^{\prime\prime} + p(x)y^{\prime} + q(x)y = r(x)$
- 係数(coefficients): 関数 $p$、$q$
- 入力(input): $r(x)$
- 出力(output) または 応答(response): $y(x)$
- 同次と非同次
- 同次(homogeneous): 標準形で表したとき $r(x)\equiv0$ の場合
- 非同次(nonhomogeneous): 標準形で表したとき $r(x)\not\equiv 0$ の場合
- 重ね合わせの原理(superposition principle): 同次線形常微分方程式 $y^{\prime\prime} + p(x)y^{\prime} + q(x)y = 0$ について、開区間 $I$ で任意の二つの解の線形結合も同様に与えられた方程式の解となる。つまり、与えられた同次線形常微分方程式に対する任意の解の和と定数倍もまたその方程式の解となる。
- 基底(basis) または 基本系(fundamental system): 区間 $I$ で線形独立な同次線形常微分方程式の解の対 $(y_1, y_2)$
- 次数低下法(reduction of order): 2階同次常微分方程式について、ある一つの解を見つけることができれば、この解と線形独立な二つ目の解、つまり基底を1階常微分方程式を解いて求めることができ、このような方法を次数低下法という
- 次数低下法の応用: 一般的な2階常微分方程式 $F(x, y, y^\prime, y^{\prime\prime})=0$ は、線形であるか非線形であるかに関わらず、次の場合に次数低下法を用いて1階に下げることができる
- $y$ が明示的に現れない場合
- $x$ が明示的に現れない場合
- 同次線形で、一つの解をすでに知っている場合
Prerequisites
2階線形常微分方程式
2階常微分方程式を
\[y^{\prime\prime} + p(x)y^{\prime} + q(x)y = r(x) \label{eqn:standard_form}\tag{1}\]の形で書くことができれば線形(linear)といい、そうでなければ非線形(nonlinear)という。
$p$、$q$、$r$ が任意の $x$ に対する関数のとき、この方程式は $y$ とその導関数に対して線形である。
式 ($\ref{eqn:standard_form}$) のような形を2階線形常微分方程式の標準形(standard form)といい、もし与えられた2階線形常微分方程式の第一項が $f(x)y^{\prime\prime}$ であれば、方程式の両辺を $f(x)$ で割って標準形を得ることができる。
関数 $p$、$q$ を係数(coefficients)、$r(x)$ を入力(input)、$y(x)$ を出力(output) または入力と初期条件に対する応答(response)という。
同次2階線形常微分方程式
式 ($\ref{eqn:standard_form}$) を解こうとする区間 $a<x<b$ を $J$ とする。式 ($\ref{eqn:standard_form}$) で区間 $J$ について $r(x)\equiv 0$ であれば
\[y^{\prime\prime} + p(x)y^{\prime} + q(x)y = 0 \label{eqn:homogeneous_linear_ode}\tag{2}\]となり、これを同次(homogeneous)という。
非同次線形常微分方程式
区間 $J$ で $r(x)\not\equiv 0$ の場合、非同次(nonhomogeneous)という。
重ね合わせの原理
\[y = c_1y_1 + c_2y_2 \quad \text{(}c_1, c_2\text{は任意の定数)}\tag{3}\]の形の関数を $y_1$ と $y_2$ の線形結合(linear combination)という。
このとき、次が成り立つ。
重ね合わせの原理(superposition principle) 同次線形常微分方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) について、開区間 $I$ で任意の二つの解の線形結合も同様に式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の解となる。つまり、与えられた同次線形常微分方程式に対する任意の解の和と定数倍もまたその方程式の解となる。
証明
$y_1$ と $y_2$ が区間 $I$ で方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の解であるとする。$y=c_1y_1+c_2y_2$ を式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) に代入すると
\[\begin{align*} y^{\prime\prime} + py^{\prime} + qy &= (c_1y_1+c_2y_2)^{\prime\prime} + p(c_1y_1+c_2y_2)^{\prime} + q(c_1y_1+c_2y_2) \\ &= c_1y_1^{\prime\prime} + c_2y_2^{\prime\prime} + p(c_1y_1^{\prime} + c_2y_2^{\prime}) + q(c_1y_1+c_2y_2) \\ &= c_1(y_1^{\prime\prime} + py_1^{\prime} + qy_1) + c_2(y_2^{\prime\prime} + py_2^{\prime} + qy_2) \\ &= 0 \end{align*}\]となり恒等式となる。したがって、$y$ は区間 $I$ で方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の解である。$\blacksquare$
重ね合わせの原理は同次線形常微分方程式についてのみ成り立ち、非同次線形常微分方程式または非線形常微分方程式では成り立たないことに注意する。
基底と一般解
1階常微分方程式での主要概念の復習
以前にモデリング(Modeling)の基本概念で見たように、1階常微分方程式に対する初期値問題(Initial Value Problem)は常微分方程式と初期条件(initial condition)$y(x_0)=y_0$で構成される。初期条件は与えられた常微分方程式の一般解の任意定数 $c$ を決定するために必要であり、このように決定した解を特殊解という。ここでこれらの概念を2階常微分方程式に拡張しよう。
初期値問題と初期条件
2階同次常微分方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) に対する初期値問題(initial value problem)は、与えられた常微分方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) と2つの初期条件(initial conditions)
\[y(x_0) = K_0, \quad y^{\prime}(x_0)=K_1 \label{eqn:init_conditions}\tag{4}\]で構成される。この条件は常微分方程式の一般解(general solution)
\[y = c_1y_1 + c_2y_2 \label{eqn:general_sol}\tag{5}\]の2つの任意定数 $c_1$ と $c_2$ を決定するために必要である。
線形独立と線形従属
ここで少し線形独立と線形従属の概念を見てみよう。後で基底を定義するにはこれを理解する必要がある。 二つの関数 $y_1$ と $y_2$ が定義された区間 $I$ のすべての点で
\[k_1y_1(x) + k_2y_2(x) = 0 \Leftrightarrow k_1=0\text{かつ }k_2=0 \label{eqn:linearly_independent}\tag{6}\]であれば、この二つの関数 $y_1$ と $y_2$ は区間 $I$ で線形独立(linearly independent)であるといい、そうでない場合 $y_1$ と $y_2$ は線形従属(linearly dependent)であるという。
もし $y_1$ と $y_2$ が線形従属であれば(つまり、命題 ($\ref{eqn:linearly_independent}$) が真でなければ)、$k_1 \neq 0$ または $k_2 \neq 0$ で ($\ref{eqn:linearly_independent}$) の方程式の両辺を割って
\[y_1 = - \frac{k_2}{k_1}y_2 \quad \text{または} \quad y_2 = - \frac{k_1}{k_2}y_2\]と書くことができるので、$y_1$ と $y_2$ が比例することがわかる。
基底、一般解、特殊解
戻って、式 ($\ref{eqn:general_sol}$) が一般解となるためには、$y_1$ と $y_2$ は方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の解であると同時に、区間 $I$ で互いに比例せず線形独立(linearly independent)でなければならない。このような条件を満たす、区間 $I$ で線形独立な方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の解の対(pair) $(y_1, y_2)$ を区間 $I$ での式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の解の基底(basis) または基本系(fundamental system)という。
初期条件を活用して一般解 ($\ref{eqn:general_sol}$) の二つの定数 $c_1$ と $c_2$ を決定することで、点 $(x_0, K_0)$ を通り、その点での接線の傾きが $K_1$ である唯一の解を得る。これを常微分方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) の特殊解(particular solution)という。
式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) が開区間 $I$ で連続であれば、必ず一般解を持ち、この一般解はすべての可能な特殊解を含む。つまり、この場合、方程式 ($\ref{eqn:homogeneous_linear_ode}$) は一般解から得られない特異解(singular solution)を持たない。
次数低下法 (reduction of order)
2階同次常微分方程式について、ある一つの解を見つけることができれば、この解と線形独立な二つ目の解、つまり基底を次のように1階常微分方程式を解いて求めることができる。このような方法を次数低下法(reduction of order)という。
$f(x)y^{\prime\prime}$ ではなく $y^{\prime\prime}$ を持つ標準形の2階同次常微分方程式
\[y^{\prime\prime} + p(x)y^\prime + q(x)y = 0\]について、開区間 $I$ でこの方程式の一つの解 $y_1$ を知っているとする。
ここで求めたい二つ目の解を $y_2 = uy_1$ とおき、
\[\begin{align*} y &= y_2 = uy_1, \\ y^{\prime} &= y_2^{\prime} = u^{\prime}y_1 + uy_1^{\prime}, \\ y^{\prime\prime} &= y_2^{\prime\prime} = u^{\prime\prime}y_1 + 2u^{\prime}y_1^{\prime} + uy_1^{\prime\prime} \end{align*}\]を方程式に代入すると
\[(u^{\prime\prime}y_1 + 2u^{\prime}y_1^{\prime} + uy_1^{\prime\prime}) + p(u^{\prime}y_1 + uy_1^{\prime}) + quy_1 = 0 \tag{7}\]を得る。$u^{\prime\prime}$、$u^{\prime}$、$u$ の各項をまとめて整理すると
\[y_1u^{\prime\prime} + (py_1+2y_1^{\prime})u^{\prime} + (y_1^{\prime\prime} + py_1^{\prime} + qy_1)u = 0\]となる。ところが $y_1$ は与えられた方程式の解であるため、最後の括弧内の式は $0$ となり、$u$ の項が消えて $u^{\prime}$ と $u^{\prime\prime}$ に関する常微分方程式が残る。この残った常微分方程式の両辺を $y_1$ で割り、$u^{\prime}=U$、$u^{\prime\prime}=U^{\prime}$ とおくと、次のような1階常微分方程式を得る。
\[U^{\prime} + \left(\frac{2y_1^{\prime}}{y_1} + p \right) U = 0.\]変数分離して積分すると
\[\begin{align*} \frac{dU}{U} &= - \left(\frac{2y_1^{\prime}}{y_1} + p \right) dx \\ \ln|U| &= -2\ln|y_1| - \int p dx \end{align*}\]となり、両辺に指数関数を取ると最終的に
\[U = \frac{1}{y_1^2}e^{-\int p dx} \tag{8}\]を得る。先ほど $U=u^{\prime}$ としたので $u=\int U dx$ となり、求めたい二つ目の解 $y_2$ は
\[y_2 = uy_1 = y_1 \int U dx\]である。$\cfrac{y_2}{y_1} = u = \int U dx$ は $U>0$ である以上定数にはならないので、$y_1$ と $y_2$ は解の基底を形成する。
次数低下法の応用
一般的な2階常微分方程式 $F(x, y, y^\prime, y^{\prime\prime})=0$ は、線形であるか非線形であるかに関わらず、$y$ が明示的に現れない場合、$x$ が明示的に現れない場合、または先ほど見たように同次線形で一つの解をすでに知っている場合に次数低下法を用いて1階に下げることができる。
$y$ が明示的に現れない場合
$F(x, y^\prime, y^{\prime\prime})=0$ で $z=y^{\prime}$ とおくと、$z$ に関する1階常微分方程式 $F(x, z, z^{\prime})$ に下げることができる。
$x$ が明示的に現れない場合
$F(y, y^\prime, y^{\prime\prime})=0$ で $z=y^{\prime}$ とおくと、$y^{\prime\prime} = \cfrac{d y^{\prime}}{dx} = \cfrac{d y^{\prime}}{dy}\cfrac{dy}{dx} = \cfrac{dz}{dy}z$ となるので、$y$ が独立変数 $x$ の役割を代わりに果たす $z$ に関する1階常微分方程式 $F(y,z,z^\prime)$ に下げることができる。